最高裁判所第三小法廷 昭和58年(オ)793号 判決 1984年2月14日
上告人
株式会社
つるや
右代表者
掛川誠司
右訴訟代理人
宮下浩司
被上告人
ジーエス興産株式会社
右代表者
春日節雄
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人宮下浩司の上告理由第一及び第二について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の認定にそわない事実又は独自の見解に基づいて原判決の不当をいうものにすぎず、採用することができない。
同第三について
不動産に順位を異にする複数の抵当権が設定され、その中間に賃借権等の用益権がある場合において、後順位の抵当権が実行されたときは、競落の結果、先順位の抵当権は弁済によりすべて消滅するのであるから、最先順位の抵当権に対抗できない中間の賃借権等の用益権も右抵当権とともに消滅するものと解すべきことは、当裁判所の判例の趣旨とするところ(最高裁昭和四四年(オ)第一二一一号同四六年三月三〇日第三小法廷判決・裁判集民事一〇二号三八一頁、同昭和五二年(オ)第一一一一号同五三年六月二九日第一小法廷判決・民集三二巻四号七六二頁)、この理は、最先順位の抵当権設定当時存在した賃借権が消滅し、その後新たに賃貸借契約が締結された場合であつても、異なるものではないと解するのが相当であるから、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、上告人の所論賃借権をもつて、競落人である被上告人に対抗することができないとした原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に基づいて原判決の不当をいうものにすぎず、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(横井大三 伊藤正己 木戸口久治 安岡滿彦)
上告代理人宮下浩司の上告理由
第一、第二<省略>
第三、原判決は、大審院大正七年五月一八日判決や最高裁判所昭和四六年三月三〇日判決を誤解している。
一、右判決は、競売申立債権者には対抗できるが消除主義によつて消滅する先順位の抵当権には後れるという、いわゆる中間の用益権は、競落によつて消滅する、と述べるものである。
しかし、右判決は、いずれも先順位の抵当権の性質については、何も触れていない。
従つて、本件のように最先順位の抵当権の設定時に、その後解約によつて消滅したと言えとにかく相当長期間存続する事が予想された賃借権の存在していた場合にまで、右判決の規範が適用されるとは限らない。
むしろ、判決というものが、事実に則した具体的規範であるとの性質に着眼するならば、事実が異なれば、判例の規範は、原則として事実の違う場合にまで及ぶものではないので、先例は拘束力を持たないから、前記判例は、本件に適用ないと考えるべきであろう。
二、民法第三八八条の法定地上権は、当事者の意思によつて説明されるのが一般である。
すなわち、土地の上の建物がある場合、土地か建物のどちらか一方のみに抵当権を設定したときは、抵当権者も設定者も、ともに競売によつて所有者が異なるようになつたときには、建物のために地上権を設定する意思で、抵当権設定取引をしているものとみなすのである。
このような解釈が許されるなら、本件のように建物に抵当権を設定する当時、当該建物に賃借人が存する場合には、抵当権者も設定者もともに当該抵当権は賃借権の存在を前提とする抵当権とする意思すなわち賃借権による対抗を受ける抵当権とする意思で設定したものとみなす事が許されるであろう。
そうだとすれば、最先順位の抵当権は、設定時の賃借権のみでなく、その後入れ替つた賃借権にも対抗される抵当権とする意思で設定されたものとみなす事に何らの障害もない。
そうすると本件においては、最先順位の抵当権である八十二銀行の抵当権が設定されたとき、上告人の賃借権ではないが、とにかく他の者の賃借権が存在していたのであるから、八十二銀行も訴外アカカバンも賃借権の対抗を許す意思で抵当権を設定したものとみなす事ができ、従つて、最先順位の抵当権がかかる意思のもとに設定されたものであるが故に、上告人の賃借権は、いわゆる中間の用益権ではあるけれども、あらゆる抵当権者に対抗できるとみなし得る。
かかる考えは、最先順位の抵当権の設定両当事者の意思の支配を認めるものであるが、それによる具体的不都合は何もない。逆に抵当権と用益権の妥当な調整を計り得るものである。
現実の利益考量あるいは比較考量から言つても上告人が再三主張するように最先順位の抵当権の設定時に存在した賃借権の譲渡という法形式を採用した場合とそうでなく新規契約という法形式を採用した場合とで、賃借権の保護に差を設ける事自体意味のない差別であり法的正義に反するものである。
三、原判決は「競落の効果として競落人である被控訴人に対抗し得ないものであつて、この理は控訴人の主張のような事情があつたとしても、左右される余地のないもの。」と言つているが、これは、前記最高裁判決や大審院判決を誤解するものであり、真に事実に基づき法的判断の反省のうえに立つた言葉だとはどうしても思えない。
原判決は前記二判決の形式理論を安易に本件に適用したものであり、判決の適用を誤解しており、誤つた判決である。